「もしかして…誰かいる?」無人なのに、人の温かみを感じる不思議な本屋。 三鷹「BOOK ROAD」

 「いやぁ、この前、店内の会計用のガチャガチャが壊れて、お客さんからメールが入ったんです。ああ、申し訳ないことしたと思い夜になって修理に行ったら、ガチャガチャの上に小銭が積まれていました。わざわざ置いていってくれたことも嬉しかったし、その小銭を午前中から今までの間、誰も盗らなかったんですよね。そういったことが店を始めてから4年間、ずっとあるんです。」

照れくさそうに笑う、店主の中西 功さんです。
ここは、JR三鷹駅北口から徒歩10分程にある、“無人”の本屋「BOOK ROAD(ブックロード)」。その名の通り、店には、店主も従業員もいません。終日無人の不思議な本屋です。

私は興味がある本を目にすると手当たり次第に買ってしまう、完全な本マニアです。特に好きな本は小説よりもビジネス本や自己啓発本ですが、自分が知らなかったマニアックな本を教えてくれる「本屋さん」そのものもまた大好き。
今まで行ったことのなかった街に行けば、その街に根ざす小さな本屋を探して、必ず入るようにしています。
都心の大きな本屋もよく行きます。けれども、店主の想いが詰まった、セレクトされた本を取り揃えている街の小さな本屋で過ごす時間は、日々の忙しさを忘れさせてくれる大切な時間です。

そんな本好きな私は、いつしか、「本屋さんを自分で開いてみたい」と思うようになりました。でも、自分で始めようにも始め方がわかりません。まずは、とにかく東京の変わった本屋をすべて周ってみよう、と思ったわけです。
そのときに、以前、噂で聞いたことがあるこの不思議な本屋のことを、ふと思い出しました。Webで調べるとTwitterのアカウントを発見。連絡をとってみたところ、日曜の夜に会ってくれるとのこと。ありがたい。

考え尽くされた、店内の設計

「BOOK ROAD」の店内は二畳ほどの小さなスペースで、カラカラと扉を開けるとセンサーが私を察知して、自然と店内に明かりが灯ります。壁面には、よく会社のキャビネットに使われている無機質なスチール製の棚が置かれていて、そこには歴史にまつわる本から小説やビジネス本など、様々な本が並べられています。
とてもシンプルな棚ですが、その分、本屋の利用方法が書かれた手書きの案内板に自然と目がいき、初めて訪れた人も迷わず使えるようになっています。

商品である本は、比較的余白がある陳列方法で、カテゴリやジャンル分けなどもなくミックスされています。店内自体は2畳程の広さですが、奥にはこの店の書庫があり、3000冊以上の本が保管されています。

中西さん「お店を開いた当初は、お客さんにたくさんの本と出会って欲しくて棚にびっしり並べていたんです。そうすると、分類分けしてほしい、と言われてしまったり、取りづらかったり、(無人ですから)たまに見回りに来ると本が落ちていたりして、これはお客様のためになっていないな、と考え、あえて少ししか並べない陳列に変えました」

また、支払い方法もユニークです。店内には、幼い頃に駄菓子屋でよく回したガチャガチャが二台あります。
一台は300円入れるタイプ、もう一台は500円入れるタイプ。本を買いたいと思った人は、本の背表紙につけられた値札(すべて300円と500円の組み合わせで計算された値段)を見て、ガチャガチャにお金を入れます。そして、ハンドルを回し、出てきたカプセルの中にはビニール袋があり、その中に購入したいお目当ての本を入れます。

中西さん「例えば何か箱を店内に置いて、その中にお金を入れて出て行く、という流れでもいいんですが、それだとどうしても『盗んでしまった』という罪悪感がぬぐえない、というのが人間心理のようなんです。せめて買っていただいたのですから、商品である本を入れる袋あげたいと思い、この空間の中でどう設計できるか考えました。そして『本を買う』『袋をあげる』という二つのことを可能にする方法が、このガチャガチャの仕組みでした。」

中西さんは普段はIT業界で働き、その傍らでBOOK ROADの運営をしています。Webサイト上のUIやUXデザイン(User Interface、User Experienceの略。WEB上でのユーザー体験をより良いものにするために用いられる考え方)について日常的に考えているためか、店内の仕組みには無駄なことが1つもなく、それでいてお客様に寄り添う中西さんの想いがつまっています。このシンプルな設計の裏には、中西さんの弟、健さんの存在がありました。一級建築士の健さんの協力のもと、人の感じ方・捉え方を意識した店舗運営の最適な仕組みを兄弟で設計したそうです。

地域と本屋の小さな交流

この日も、同僚の方に寄贈いただいた本を仕入れに来ていた中西さん。

中西さん「ぼくもずっと本が大好きで、家には本が山ほどあるんです。その本をそろそろ処分しなければいけなくなったときに、ただ売ったり捨てたりするのはもったいない、って思ったんです。せっかくなら、本屋として他の方に読んでいただける仕組みがつくりたいな、と思ったのがお店を始めたきっかけです。29歳の頃から、ずっと思案して、今から4年前の34歳のときにようやくいい物件にも巡り会い、開店することができました」

慣れた手つきで値付け、店頭へと並べていきます。

 

本の仕入れは基本的に人から譲ってもらった本や自分で読み終わったものなど古本です。その本に対して、劣化の具合などを見て、中西さんが感覚で値札をつけ、棚へと並べられます。

中西さん「たまに、見慣れない本が並んでいるなぁ、と思って背表紙を見ると、やっぱり値札が貼られていないんですよね。きっと誰かが善意で置いていってくださっているんだと思います」なんていう珍事も!

気になるのは「本当に本が盗まれていないのか」というところ。無人ゆえの悩みなどもさぞ多いのでは、と思いましたが、意外な答えが…。

中西さん「お店を始めた頃は、朝必ずここに来て写真を撮り、夜に朝の状況と変わりがないかを見比べる、なんてことをやっていたんですけれど、なんか、全然無くなっていないんです。つまり万引きはないんですよね(笑)。無くなっている分、ちゃんとお金がガチャガチャの中に入っていたりして。今ではもう、撮影して朝晩比較することはしなくなりました」

「あと昔は、夕方にここにたむろしている若者たちがいたらしいんですけど、となりの塗装屋の女将さんが『私が追い払っておいたよ!』と教えてくれたこともありました。ある意味、地域の住民の方々がこの本屋を見守ってくれているんです。みなさんのご厚意によって支えられている本屋だな、って本当に感じます」

「無人」と聞くと、なんだかすこし寂しいようなイメージを持っていた私ですが、ここには「無人」だからこそ感じられる「温かさ」がありました。皆さんもぜひ、この不思議な空間に足を運んでみてはいかがでしょうか。

 

無人古本屋 BOOK ROAD

住所:東京都武蔵野市西久保2丁目14-6
営業時間:24時間営業
定休日:年中無休
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編集長・プロデューサー

仙台生まれ。好奇心旺盛。週末、街歩きしながら外でビールを飲むことに至福を感じる。好きな街の種類はこじんまりした居酒屋がある場所。口癖は「なんとかなるさー」。最近、山ごはんに興味津々、みんなの親分。

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