都心で旅館に泊まる。古き良き伝統と温かいおもてなしに心なごむ老舗旅館「鳳明館」

電車で気軽にアクセスできる、東京の名旅館

仕事に趣味にと毎日充実しているけれど、ふと喧騒を離れてのんびりしたくなることはありませんか。私がそんな時に欲するのは、畳の香り、木のぬくもり、広いお風呂…そう、「旅館」です。

 

旅館に行くには遠方へ出向かなくてはならないと思いがちですが、実は都内にも風情あふれる旅館があります。文京区の本郷にある「鳳明館」は、登録有形文化財にも指定されている老舗旅館。古き良き情緒と格式にとらわれない前向きな姿勢が織りなす、温かさに満ちたお宿をご紹介します。

文豪たちが愛した町、本郷の老舗旅館

東京大学がある町、文京区・本郷。赤門やレンガの校舎が建つ大通りから一本入ると、細い路地が張り巡らされており、そこかしこに木造の古民家や昭和を感じさせるレトロな喫茶店が点在しています。

本郷は明治・大正時代の文豪が愛した町としても有名で、かつては樋口一葉が居を構えていたほか、小説家・徳田秋声の邸宅などが今もその形を留めています。また「文の京(ふみのみやこ)」と呼ばれた文京区らしく、古くからの学生用下宿やカフェで勉強に励む学生の姿が見られるなど、アカデミックな雰囲気と活気に包まれています。

そんな本郷の町とともに歴史を刻んできたのが「鳳明館」。明治38年に創業した本館をはじめ、本郷の町に3つの館を持つ老舗の旅館です。館の成り立ちはそれぞれ異なりますが、今回は、当初から旅館としての利用を目的に建てられた「森川別館」を訪ねてみました。

館内の随所に光る、職人の技巧と熱意

石畳の通路を抜けて玄関へ向かうと、脇にはかわいらしい亀の置物がお出迎え。女将さんが「亀の下は土がむき出しになっていたのですが、小石を敷いて整えてあげたらいいことが起こったんですよ」と教えてくれました。せっかくなので、私もじっくりと拝ませていただきます。
 
館の中ではもっとも新しい森川別館ですが、創業は昭和30年代初期。館内は銘木の造形美を生かしたデザインが魅力で、まるでタイムスリップしてしまったかのようなどこか懐かしく詩情を感じさせる空間が広がります。
内装は、創業者が買い集めた銘木を棟梁と相談しながらひとつずつ配置していきました。館内を歩いていてもふたつとして同じ形のものは見当たりません。
 
客室もすべて趣が異なりその数は全部で33室。中でも注目なのが「末広」という名前のお部屋です。
天井には木でできた大きく立派な扇があしらわれていて、まさに圧巻。複雑な扇の形を見事に表現していて、見るほどに細かく丁寧につくられていることがわかります。
 
他にも、館内の至るところで遊び心あふれる装飾に出会うことができます。しかし、これらをほどこすには相当な技巧と労力が必要なはず。聞いてみると、やはり当時の職人さんだからこそ成し得たものでした。
「ちょっとした創作の場面でお弟子さんが自分の力量を示し、親方は黙っているけれどしっかり見ている。そして、力が認められたら次の仕事を任せてもらえるという仕組みになっていたのだそうです。」と女将さん。こうした熱い職人気質が形となって、鳳明館に唯一無二の魅力をもたらしているのでしょう。
 
また、1階には2つの浴室が設けられいずれもタイル貼り。円形の浴槽やローマの風景を模したタイル絵、ケロリンの風呂桶などがレトロな雰囲気を醸し出しています。

歴史ある名宿でありながら、誰でもカジュアルに使える間口の広さ

半世紀以上の歴史を持つお宿でありながら、最近は新しい傾向として大学生サークルなどの親睦会も数多く受け入れているのが森川別館の特徴です。地下には57畳もの大広間があり、この場所を目的にした利用客も多数。宿泊以外にデイユースも受け付けています。

ニーズは幅広く、「ライトノベル研究会の方や、宴会をしている社会人などもいらっしゃいます。他にも、町内会等のママ会などに利用していただくのも良いと思います。赤ちゃんが泣いても周りに気兼ねする必要がないので、安心して利用していただけますよ。小さいお子さんがいらっしゃるお母さんたちのネットワークづくりなどにも貢献できたらと考えているんです。」と教えてくれました。

由緒正しい旅館でありながらカジュアルな利用もできることに驚いていると、「旅館ならではのくつろぎを満喫していただきたいので、新たなニーズにも積極的に取り組んでいきたいんです。」という前向きなお言葉。旅館は敷居が高いというイメージは、私たち利用者の思い込みなのかもしれないと気づかされました。

登録有形文化財に日本庭園…近場に佇む3館は、異なる趣が魅力

森川別館から歩いて2〜3分のところにある本館と台町別館も、それぞれ異なるコンセプトを持っています。鳳明館のはじまりは本館で、最初は下宿として営業していました。今では登録有形文化財にも指定されている、建造物としても価値の高いお宿です。通りに面した大きな窓から、当時の学生さんたちは本郷の町をどんな思いで眺めていたのでしょうか。
また、本館の隣に建つのが台町別館。こちらは個人の邸宅だったものを改装して、昭和20年代中頃から旅館としての営業をはじめました。
広い日本庭園があり、池には大きな鯉が悠々と泳いでいます。時には鳥のさえずりが聞こえることも。庭は、1階から間近に眺めるも良し、2階から見下ろすも良し。場所によって異なる眺望が楽しめます。
 
こちらの館には24時間利用できるお風呂もあるので、のんびり一人時間を過ごしてみるのも良さそうですね。

変わらないおもてなしで、今までもこれからも

最後に特別に案内していただいたのが、本郷の町を一望することができる森川別館の屋上。普段は入ることができないこの場所から町を眺めていると、やはり新しい建物も多く目に入ります。

かつては70〜80軒あった旅館も、「今は7〜8軒になってしまったんです」と女将さん。創業時の配管や設えを直せる業者さんが減ってしまい、やむなく閉館しているお宿が少なくないのだとか。そんな中で鳳明館は、創業者のお子さんやお孫さんが代々受け継いで、大切に営業を続けています。

「今では海外のお客様も多くなりましたが、常に大事にしているのはおもてなしの心。流暢な英語でなくても伝わるし、カタカナ英語の方がかえって日本旅館らしいと喜ばれるくらい。最近は、泊まりに来たお客様が近隣のお店も訪ねてくださるよう、町内のお店との連携にも努めているんです。」

微笑みながら話すその言葉から、鳳明館が創業から今日に至るまで、常に温かい人の思いに包まれていることを実感しました。忙しい日々に流されそうになったら、ここに来て女将さんとお話したり、部屋からぼんやりと町を眺めたりすれば、忘れかけていた自分が取り戻せそう。一人でも電車で気軽にアクセスできる、憩いのお宿を見つけることができました。

 

鳳明館 森川別館

文京区本郷6-23-5
地下鉄南北線「東大前駅」より徒歩3分、地下鉄三田線「春日駅」より徒歩8分、地下鉄丸ノ内線及び大江戸線「本郷三丁目駅」より徒歩13分
宿泊料金/(1泊)素泊まり5,400円、朝食付き6,500円~
※宿泊、デイユース、宴会プラン等の詳細は 鳳明館までお問い合わせください。
TEL:03-3811-1181

http://www.homeikan.com/

ライター

静岡県生まれ。好きなものは、映画、登山、温泉、アーユルヴェーダ。地図が読めないため、町歩きはもっぱら勘がたより。旅行系の冊子やWEBをメインに執筆しています。

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