残したい景色や空気を綴じ込める。思いを共有し『綴じる』カフェ「Gigi」

「本×カフェ」の文化を、新たなかたちで提供

行き先を決めずにぶらりと街歩きをし、見つけたカフェでコーヒーを飲みながら読書をする。それが、私のお気に入りの休日の過ごし方です。どの街でも個性豊かなカフェや喫茶店に出会えるけれど、いつも感じるのはコーヒーと本の親和性の高さ。

最近は読書が満喫できるブックカフェも増えてきましたが、そんな中で少し変わったアプローチでコーヒーと本を提供しているカフェを見つけました。お店の名前は「Coffee&Bindery Gigi(コーヒーアンドバインダリ ジジ)」。下町の風情を色濃く残す千駄木のカフェでは、同じ本でもただ読むのではなく自分だけの一冊を製本することができる、とっておきの空間が広がっていました。

古き良き「谷根千」エリアになじむカフェ

谷中、根津、そして千駄木。「谷根千」と称されるこのエリアには、入り組んだ路地が張り巡らされ、昭和の趣を感じさせる家々が立ち並びます。道を歩けば行き交う人々が挨拶を交わしたり、おしゃべりをしたり。昼下がりのひと時を思い思いに過ごす様子は、見ているだけで心が和みます。
そんな千駄木の長屋の一角にあるのが、「Coffee&Bindery Gigi」。深緑に塗られた外装は、建物がもともと持っていた風情を残しながらもおしゃれな雰囲気。掲示された看板やメニューボードにもセンスが光ります。
散歩中だという近所のおじさんに遭遇すると、「ここの店長さんは東京藝大出身だからね、こういうの上手につくるんだよ」となんだか嬉しそう。その表情からも、お店がすでにこの街に根付きつつあるのだと感じました。

製本が教えてくれる、オンリーワンの本をつくる楽しみ

店内に入り2階に上がると、ウッド調のテーブル席が並び、奥には製本スペースが設けられています。「製本」とは、印刷物を綴じて一冊の本をつくること。Gigiの製本機では、単行本のように表紙でくるむ「くるみ製本」と、製本したのりの部分がむき出しになる「天のり製本」を行うことができます。さらに、製本機の向かいには裁断機とコピー機も完備。製本後に裁断機で断面を整えれば、よりきれいに仕上がります。
初めてでもできるのだろうかと不安がよぎりましたが、「使いやすさを重視しているので、誰でも簡単に使えますよ」とのこと。実際に初回利用の方がほとんどですが、みなさんきちんと本を完成させています。

東京藝術大学が近いこともあり、近隣にはギャラリーが多数。そのため、展示をする作家さんが自身の作品集をつくりに来ることが多いそうです。ほかにも、本を裁断してPDFデータとして保存していたものを、再び本の形に戻したいという方など、その目的はさまざま。共通しているのは、自分だけの本をつくりたいという思いを持った人が集っているということです。

製本機は、賛同者を募って資金集めをする「クラウドファンディング」という方法で導入されました。当初クラウドファンディングの利用は予定していなかったものの、コンセプトや空間ができ上がるまでの過程を見せることができ、実際に応援の声も多く届いたと言います。現在ではクラウドファンディングに参加した方が愛着を持ってお店を訪ねてくることもあります。

豆選びからこだわり抜いた一杯で、くつろぎのひと時を

1階のカウンター席では、常連さんがお茶をしながらおしゃべりをしている最中でした。その向こうで優しくうなずくのが、店主の澤村祐介さん。コーヒーの芳醇な香りと笑い声があたりを包み、店内には穏やかな時間が流れています。
端には焙煎機が鎮座し、オーダーすると一杯ずつコーヒーを淹れてくれます。かつては、東京藝術大学で学びながら飲食店で働いていた澤村さん。料理の盛り付けや店舗の空間デザインなど、働きながら肌で体感することが大学で学んでいることに通ずると感じ、飲食の世界に惹かれていきました。
そんな時、ある珈琲屋さんと出会い、苦いだけではないコーヒーの奥深さに魅了されたと言います。次第に自分で焙煎してみたいと思うようになり、Gigiでは自ら厳選した品種を自家焙煎しています。

目指したのは、ものづくりを通じて人が集う「コミュニティ」

「人と人が出会う『カフェ』という場所で、思いを共有し『綴じる』作業ができたら、ものづくりを通じて人が集う場所になるのでは、と思ったんです」と、カフェに製本機を設置したきっかけを教えてくれた澤村さん。大学では印刷やデザインを学び、卒業後は講師として印刷技術の指導の面白さを伝えてきました。
そして29歳の時に、当時講師として兼任していた仕事がひと段落。「定年後にお店を開くことも考えたのですが、このタイミングでやってみようかなと思って」。こうして30歳を目前に、これまで培った飲食や製本のスキルと、ご自身の思いをたっぷり詰め込んで、Gigiはオープンしました。
ちなみにお店の候補地には、中目黒や新宿、目黒なども浮かんだそう。しかし選んだのは学生時代から馴染みのある千駄木の町でした。「千駄木は文化人が愛した町でもあり、昔ながらのお店も多く残っています。最近は若い人がお店を開いたり観光客が訪れたりすることも増えましたが、常連さんと一見さんでも仲良くなれる温かさが魅力ですね」。その言葉通り、製本とカフェという組み合わせは不思議と千駄木の町になじみ、ひとつの「場」として息づいていました。

その場限りの出会いを共有し綴じ込めることで、一瞬を永遠に

訪れる前は「なぜ谷根千にカフェと製本?」という疑問を抱いていましたが、実際に来てみると、そこで起こっている化学反応に驚かされました。通常、お店の客層には性別や年齢、趣向など多少の偏りが見られますが、このお店にはそれがありません。代わりに、一見まったく違う人同士が出会い、思いを共有することで、「Gigi」という新たな空間が生まれていました。
 「千駄木に来た人はもちろんですが、ものづくりが好きな人や、東京から地方へ行ったクリエイターたちが戻ってくる拠り所のような場所にもなったらいいですね。そのためには、何よりもお店を続けることが大切かな、と」。千駄木の町から発した澤村さんの願いは、お店に来る人たちに確実に伝わっています。さらに製本を行えば、本に込めた思いと一緒にGigiでのひと時も綴じ込めることができそう。
そういえば、私のPCには取材や旅行の道中に撮りためた車窓風景の写真がたくさん。最後に千駄木へ来る途中の写真も追加して、自分だけの写真集を作ってみるのも良いかも…と自然とアイディアが浮かびました。丁寧に淹れられたコーヒーを飲みながら作業すれば、かけがえのない一冊に仕上りそうです。

Coffee&Bindery Gigi

文京区千駄木2-44-17
TEL.03-5834-8926
[木〜土]11:00~23:00(L.O 22:30)、[日]11:00~19:00
※水曜は、不定休で19:00〜Bar営業もしています。
定休日/月〜水曜
ライター

静岡県生まれ。好きなものは、映画、登山、温泉、アーユルヴェーダ。地図が読めないため、町歩きはもっぱら勘がたより。旅行系の冊子やWEBをメインに執筆しています。

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