ふんわりとお出汁香る和食×デジタルアート 「食神さまの不思議なレストラン」へ

時間がないわたしたちの「食」への疑問

忙しい毎日の中、食事に手間が掛けられないでいると、ふと、丁寧に作られた和食をゆっくり味わいたくなる時があります。和食といえば、仕事も休みで食事に意識を向けられる、余裕のあるお正月のイメージ。実家に帰って出汁を取ったお雑煮や、時間をかけてコトコトとろ火で炊いた煮豆を「いただきます」という挨拶とともにしっかり噛んで食べる至福の時間を思い出します。

今年も束の間のお正月休暇に、お出汁の香りをかいで、なんだかほっとしたけれど、自分で作る毎日のごはんには、そこまで時間はかけられないのが本音。いつかそのうち自分でも作る日が来ると思いながら、このままでいいのかな、という気持ちはつきまといます。

 

そんな時に知った、見て、食べる、展覧会「食神さまの不思議なレストラン」。

カナダのデジタルアート集団「モーメント・ファクトリー」が手掛けた、和食×インタラクティブアートの斬新な催しとくれば、アート好きを自負する好奇心が刺激されます。「和食っていいよね!」といいながらも、私同様いつも忙しくしているライター仲間の友人と、展覧会を開催している茅場町1丁目平和ビルへ足を運んでみました。

入場者にはもれなく「神様のおいなり」が一個食べられるという特典に心動かされたのは余談です。

世界の映像アーティストが見た「WASHOKU」のすばらしさ

茅場町1丁目平和ビルの入り口を通り、奥の方に「食神さまの不思議なレストラン」の入り口があります。灯りに誘われ、階段を昇って2階へ。第一の展示室へ誘導されます。そこに現れるのは、四季を映し出すインタラクティブ(参加できる)なパノラマアート。

「四季の谷」という名の通り、日本の美しい谷の風景に、季節が移ろう様子が表現されています。春の桜に始まり、夏は青竹、秋の紅葉、冬の雪景色…どれも自分が日本人で良かったと思うような風景。

パノラマスクリーンは、手をかざすと反応する仕掛け。浮かんでくる提灯の映像や、動物たち、乃木坂46の松村沙友理さん、若月佑美さんの演じるキツネの「ウカ」の可愛いナレーションの声が遊び心をくすぐります。なんだか、魔法使いになったみたいで、この展覧会、楽しいかも!と興奮する私たち。四季を通した日本の原風景が一枚の壁画になったよう。季節と遊ぶ体験に、この先の展示にもワクワク感が高まります…。

 

続いての展示室では、無数の光漂う暗い通路の先に、不思議な映像と音のインスタレーションが迎えます。「煮る・焼く・蒸す・揚げる」という日本食の調理法を丸や三角といった単純な形が複雑に反復する映像によって表す試みです。

 

吸い込まれるように四方のスクリーン中央へ進んでいくと、まるで見ている私たちが食材になったような気分に。ジージーという、焼かれるような音と熱を感じそうな熱い光、ぶくぶくという水の音に煮られているような水色の光…調理法ごとに違う音と、赤や青の光に囲まれます。

 

階段を上り3階へ。神社のような、ちょっと神聖な雰囲気の「和食の社」では、日本食が大切にしてきたエッセンスがインタラクティブなデジタルアートに出会えます。「発酵・道具・酒・出汁」といった和食独特の手法が四つの社として、デジタルアートになっています。英語と日本語で書かれた展示画面をつい見入ってしまいました。

 

移動すると、自分の影がキラキラ光ってスクリーンに映るのも不思議で素敵。動きに合わせて光が変形するので、自分自身がアート作品の中に入ったように感じられ、ついつい色々な動きを楽しむ私たちの姿が。

 
ラストの展示は、お米と戯れる摩訶不思議な空間…。両手を広げても抱えられないくらい、大きなお茶碗にたっぷりのお米が炊かれる前のさらさらした状態で山盛りに入れられています。
 

指の間からこぼれ落ちるお米に、若干はしゃいで、夢中でかき混ぜていると、光も動いて等高線のような不思議な模様が。こちらの展示は、手に触れるお米から「田んぼ(自然)から食卓までが繋がっている」と感じられる映像表現だと言われています。山盛りのお米を見て、「一粒一粒が大地とつながっている」、なぜかそんな郷愁を覚えました。

香る空間、食べる喜び、五感で感じるザ・和食

さらに階段を上ると、ついにお待ちかねの4階食神様のレストラン。着いた瞬間から日本人の胃袋をいやでも刺激するお出汁の香りが立ち込めます。

ここでは、世界に認められるWASHYOKUの誇りを、日本の伝統の食文化を守る料理人中東久人の技を、特別に用意されたレシピを基にしたメニューを通じて、視覚で、嗅覚で味覚で堪能できます。キツネのウカの声がどこからともなく聞こえてくるブースもあり、聴覚も刺激されます。

映像をじっと見るだけではなく、スクリーンに手を触れ、映像に映る自分の姿を動かして楽しむ、参加型展示の成果でお腹はペコペコ。それでも、食事の前に調味料についての説明書きをじっくり読んでいる友人。和食への興味の高まりを感じますね。
 

チケットに含まれる「神様のおいなり」以外に、私たちが選んだのは、「出汁かおる 稲庭うどん」と「実山椒をきかせた親子出汁巻き」。一品一品が凛として、だしの香りを放っています。

 
「味噌と出汁の相性を考える 3種の味噌汁」は小さな器も可愛らしく、美味しそうでした。重ねて置いてあった3種の味噌樽は迫力のたたずまいです。

暗闇から目が開けるように自分たちの食を大事にしたくなる

おいなりさんも、おうどんも、だし巻き卵も…身近な料理ではあるけれど、今まで食べたことがないくらい美味しいと、うならせる「食神さまの不思議なレストラン」。日本を代表する料理人の監修は段違いだと深く納得。お腹も軽く満たされ、笑顔がはじける私たちだったけれど、心の奥で感じていることがありました。

料理人にはなれないけれど、毎日はできないけれど、だしを取ったお味噌汁を作ってみようかな。ごはんも、無洗米でもいいから、自分で炊いてみようかな。まずは、小さい袋でいいから、お米を買ってみよう!そんな、未来の食卓につながる、ちょっとした一歩を踏み出せる展覧会へ行ってみたお話です。

食神さまに捧げる、おいなりさんをいただいて、普段は意識しない日本の心がちょっと温まったような気持になれました。

食神さまの不思議なレストラン

会期/2017年1月28日(土曜)から5月21日(日曜)
会場/日本橋茅場町「特設会場」
住所/東京都中央区日本橋茅場町1−8−1 茅場町1丁目平和ビル
時間/平日10:00から21:00
金・土・祝前日10:00から23:00
日・祝日10:00 19:00
(最終入場は終了1時間前まで)
料金/入場料(神様のおいなり付き)
大人(高校生以上)¥2,000
子ども(3歳以上~中学生以下)¥1,000
飲食代別途
アクセス/東西線 日比谷線「茅場町駅」6番口 徒歩1分
ライター

東京都生まれ。休日は近場の町探検へでかけます。気になった喫茶店にふらっと入り一息つくのが至福の時。出かけた先でお土産におやつを買うのが楽しみ。